事業構想のクラッシュ&ビルドに挑戦できた充実の一ヶ月間
株式会社sci-bone 代表取締役 宮澤 留以氏

柏の葉の新産業創造を牽引するスタートアップ支援「KOIL STARTUP PROGRAM 2022」 では、3社のスタートアップを迎え入れ、各社の事業成長をハンズオンで後押ししています。
今回は、動作改善・習得に特化したウェアラブルデバイスの研究開発と、モーションデータの計測・解析技術・フィードバック技術を活用して、広く動作習得の課題解決をすることで「誰でも運動ができるようになる世界の実現」を目指す「株式会社sci-bone」。代表取締役の宮澤氏にTEPビジネスプラン作成セミナー(以下、セミナー)の感想と、その後のプログラム期間の意気込みを伺いました。
固定概念をなくしたからこそ定められた「事業の方向性」
――セミナーを受ける前は事業の構想にどのような課題があると感じていましたか?
弊社はランナー向けのウェアラブルデバイスの開発とデータ解析サービスの提供を目指していますが、このデバイスの提供先は、日常的に走っていてフルマラソンに年間2~3回は出るランナーという設定にしています。常日頃ランナーたちが抱える「タイムの向上」と「怪我のリスクを下げる」という課題は、このデバイスを使ったデータ解析とフィードバックで解決できるのではないかという仮説を持っていました。ただし、この仮説がはたして適切なのかどうかがわからないことが課題だとふんわり感じていました。
――セミナーを受けてから浮き彫りになった課題はありましたか?
セミナー初日の事業紹介ピッチをした時にメンターから「何を言っているかわからない」と言われました。そもそも自分の中でビジネスプランがまとめ切れていなかったのでもっともなのですが。
それから「あなたのデバイスはユーザーの本質的な課題解決をしていないね」と指摘をいただきました。データをただフィードバックすること自体には価値はなく何も解決しない。それよりはユーザーに価値のある情報をフィードバックした方が良いと気づけました。 メンターの中には、この分野の専門的な知見や経験をお持ちの方がいて、自分たちが参加前から持っていた課題に対して、他社の事例を挙げながら大変的確な指摘をいただきました。例えば「フィードバックする内容が重要で、そこをどう深掘るか?」や「他社との差別化をどうはかるかが重要」など、新たな課題が生まれました。

――セミナー期間の中で一番印象的だったことを教えてください
ユーザーターゲットを変えるというか拡大したことでしょうか。当初、ランナー向けに絞って展開しようと決めていましたが、その市場だけでは小さいとわかってきました。
「ランニング以外の先の展開性が見えない。企業としても成長していかない。このビジネスの面白いところはデータを取ってそれを活用することだから、ランニングにとどめてしまうのはもったいない」とメンターから指摘を受けまして、それなら他でどこでできるか?と話し合いしました。たとえば学校教育、工場や工事現場での労働、高齢者といった案の中でどれが一番実現性が高くてランニングとの相性がよく、且つデータがとりやすいかを考えた結果、高齢者の歩行をサポートするサービス展開を視野に入れることになったのです。
実はもともと高齢者はユーザー候補としては上がっていたのですが、実証実験するというところまでは考えておらず、今回セミナーを受けたことで、早めに取り組む必要があると感じたのです。
――セミナーを受けて、どのようなことに一番の学びや成長を実感しましたか?
セミナーでは自分の固定概念をまず一度崩して、メンターの方々の意見を取り入れるということを意識した期間でした。
これまで資金調達の際、技術の説明をすると「事業としてどうなの?」という疑問を持たれるケースが多くありました。そこをクリアにするためにも、自分の概念を崩して知見のあるメンターの意見を取り入れて事業の再構築に挑戦し、方向性が概ね決まったことが良かったです。
特にウェアラブルデバイスやモーションデータというものは、国内、海外どちらも、まだ事業としてうまくいっている事例が少ないところですので、この分野の経験のある方を交えて議論できるというのはすごく良かったと思いました。
―セミナー最終日の選抜者プレゼンでは最優秀賞に選ばれましたね
とにかく一回固定概念を崩してからのビジネスプラン構築だったので、伸びしろはあったかなと。事業説明の内容が明確になったので、伝えやすくなって、整合性のあるプレゼンになりました。そういう意味でもプログラムに参加できるタイミングが良かったですね。次回の10月に行われる中間報告では今後行っていく検証結果が組み込まれて、次のフェーズや資金調達についても盛り込んでいく予定です。
次のステップに進むための実証実験の実現に向けて
メンタリングで定まった事業の方向性と今後のアクション
――1か月間どのようなメンタリングを受けてきましたか?
セミナー受講生3名、メンター3名の6名で1チームになって意見の出し合いをしてきました。講義やワークショップ以外の日は、チャットツールを活用して質問をすることもできます。
私の場合はプレゼンテーションの内容だけでなく、事業内容の根本的なところや今後のアクションまで、広くフィードバックいただけました。7分のピッチの中で、ついつい技術的なことについてしゃべりすぎてしまうため、そのあたりをうまく見せる方法や構成も教えてもらいました。
また、他の受講生の皆さんはすでにサービスを開始している方もおり、展開などの方法論についての相談が多かったのですが、私は一段階遅れていて「そもそもランナーがどんな課題を抱えているのか?」「ソリューションがあっているのか?」など、もっと根底の部分から方向性を固める必要があったので、そのあたりからしっかりメンタリングいただけたと思います。
―他の受講生とも意見を交換できましたか?
はい。メンターからのフィードバックはもとより、受講生からも意見をたくさんもらいました。今回のチームの中に熱烈なランナーがいたので、厳しくも率直な意見をもらえましたので、とても大きい収穫でしたね。
受講生の皆さんは経験豊富な方が多く、不動産、マリンテックなど多種多様な分野の会社さんが参加していまして、非常に気づきも多かったし逆に教えることもありました。ただ、皆さんの専門分野には何も疑いはないのでそこには口出ししていないのですが、プレゼンの内容については同じ立場でフィードバックしました。基本的に資金調達や収益の上げ方という皆さん同じような課題を持っているので一緒に考えましたね。

――残り5ヶ月間のプログラムをどのように活用していこうと考えていますか?
今回のセミナー期間のメンタリングでは事業計画に対してのアドバイスが多く、方向性自体は概ね決まったので、これからはアクションしたことに対してのフィードバックをいただき、次の展開を決めていく機会にしたいです。
実は9月上旬から長野県を中心にモーションデータを大量に取って、ユーザーにヒアリングを実施する予定です。顧客との課題も鮮明になるし、アルゴリズム構築に必要なモーションデータも集められますので、シーズの確立とニーズの検証に同時に役立ちます。この実証実験はもともと構想としては持っていましたが、実行までは考えていませんでした。メンターからのアドバイスでシーズを確立して次のステップに進むためにやるべきだと背中を押してもらった感じです。
実証実験の後には、価格や提供先などのニーズサイドを固めていきます。
――最後に、産総研柏センターに勤務していらっしゃいますが、柏の葉スマートシティでの事業展開などはお考えでしょうか?
スマートシティでの検証も最終的に可能性としてとして残していきたい。そこまでつなげていけるようにプロジェクトを進めていきたいというのが根底にあります。
柏の葉では歩行に絡んだ実験実績もあり相性が良いと思いますし、柏の葉は検証に適した街なんです。参加される皆さんが積極的で、検証への理解もとっても早いんですよ。
他の町でやろうと思うとその説明から大変で、逆に「柏の葉ってすごいんだな」と思いました。ゆくゆくは、柏の葉で実証実験した最新事例を他の自治体にも展開していけたらと思っています。
◆ウェアラブルコーチで科学的な運動のコツを提供する|sci-bone
株式会社sci-boneは動作改善・習得に特化したウェアラブルデバイスの研究開発やモーションデータ計測・解析を中心に行い、科学的な運動のコツを提供することで、誰でも運動ができるようになる世界の実現を目指しています。
大学で駅伝選手として活躍していた自身の経験と、繊維メーカーでのウェアラブルデバイスの開発経験やモーションデータの解析、現在は国内研究機関で歩行研究に携わっている知見から、タイムの向上を目指すランナーの”伸び悩みや怪我”の課題を解決するためのウェアラブルコーチのデバイス開発・提供に向けて研究を進めています。

セミナー最終日に行われた選抜者プレゼンテーションでは、運動における動作計測技術やコーチの課題を示し、ウェアラブルコーチによる改善方法と裏付けの解析技術、解析技術向上に向けた検証プランを話しました。また、ウェアラブルコーチの技術を高齢者の歩行に応用するPhase2の構想についても発表しました。
審査員からは、事業のマネタイズのアイディアや海外展開に向けた知財戦略のアドバイスなど、事業実現に向けた具体的なフィードバックがありました。
審査員からは、事業のマネタイズのアイディアや海外展開に向けた知財戦略のアドバイスなど、事業実現に向けた具体的なフィードバックがありました。
最終審査の結果、高い技術力と市場展開の実現性、そして高齢者マーケットにも目を向けた事業の先見性が評価され、株式会社sci-boneが最優秀賞を受賞しました。

PROFILE
株式会社sci-bone
代表取締役 宮澤 留以 氏
信州大学大学院にて感性工学、生体計測を専攻。新卒で繊維メーカーに就職し、ウェアラブル事業に従事し、モーションデータ計測、解析アプリ開発を行う。2022年2月に株式会社sci-boneを設立し、国内研究機関で歩行動作に関する研究に携わりながら、事業を推進する。

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