人生に丸ごと向き合うメンタリングで、見えない枠から飛び出せた
株式会社エドギフト 代表取締役 越川光 氏
TEPメンター 市村慶信 氏

参加企業 | 株式会社エドギフト |
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事業概要 | 夢中に遊びながら指先から頭までフル活用する「組み立ておもちゃテグミー」の開発・販売、またものづくりやアントレプレナーシップを学ぶ教育プログラムの開発・運営、その他子どもに関するサービスの開発を行っている。 |
プログラムで得た実績 |
プログラム参加後(または参加期間中)に得た実績 ・50件の「テグミー」の販路拡大 ・3件の新規導入先開拓(企業研修、発達支援施設など) ・自社サイト、商品パッケージのリニューアル |
柏の葉の新産業創造を牽引するスタートアップ支援「KOIL STARTUP PROGRAM 2023」では、約5か月間にわたってスタートアップの事業成長を後押ししてきました。
今回は、指先から頭までフル活用する「組み立ておもちゃテグミー」をはじめとし、子どもに関するサービスを幅広く手掛ける「株式会社エドギフト」代表取締役の越川光氏に、TEPメンター 市村慶信 氏によるメンタリングの感想、全プログラムを終えて感じること、今後の展望を伺いました。
株式会社エドギフト 代表取締役 越川光 氏
株式会社エドギフト代表取締役。名古屋大学大学院経済学研究科修士1年。大学4年次に組み立ておもちゃ「テグミー」を開発。専攻は計量経済学で、親子の世代間所得弾力性のメカニズムについて学んでいる。これまでに3歳から高校生までの幅広い世代への指導経験がある。
TEPメンター 市村慶信 氏
大学卒業後、業務を通じて電子機器のサプライチェーンの理解を深める。その後2007年から家業である電子部品商社に移り、経営の立て直しを行いながらベンチャー企業への技術提案や経営支援を実施した。2014年に株式会社プロメテウスを創業しこれまでの経験を活かし国内外で非メーカーのプロジェクトの立ち上げ・経営サポートを行っている。
事業は「人生を通して成し遂げたいこと」の手段

── メンタリング開始時、お互いの第一印象はいかがでしたか?
株式会社エドギフト 代表取締役 越川 光(以下「越川」):市村さんの第一印象は「奇抜な髪色で、声が大きな人だな」。しかし、講義が始まると印象が変わって、ロジカルな部分が多いことに気づき、実際に話すと思考の柔軟性が高く変化に富んだ方だとわかりました。
TEPメンター 市村慶信(以下「市村」):年齢からは信じられないほどしっかりされた方だな、というのが越川さんの第一印象でした。物腰が柔らかく、とても丁寧に人とコミュニケーションがとれる一方で、自分の意見を大切にする芯の強さも感じました。
── 5ヶ月にわたるメンタリング期間で、どのような課題に取り組んできましたか?
越川:既存製品「組み立ておもちゃテグミー」の販路をどのように拡げていくか、さまざまな議論を交わしました。まだ正解は出ておらず、引き続き考えていかなくてはなりません。しかし、市村さんから「越川さんはもっと自分の製品に自信を持っていい」と言ってもらえて、自分がつくったものをたくさんの人に届けていきたい気持ちがわき上がりました。
市村:越川さんはすでに事業をされているので、施策の一つとして、テグミーという製品の価値をしっかりと伝え、認知度を上げていくために何をすればよいかを話す時間が長かったですね。どのようなキャッチコピーで伝えるかもそうですし、どのような場面・お店・イベントでテグミーを手に取ってもらうのか、といったチャネルの話もしました。
でも、実は、最初に話したのは既存事業のことではなかったんですよ。エドギフトという会社の器を通じて、越川さんがどうなっていきたいのか、どのような人生を送っていきたいのか、という話からスタートしました。
「事業=人生」ではなく、事業は人生で何かを成し遂げるための手段の一つに過ぎません。まず「どのような自分になりたいか」があって、そこから逆算して手段を考える必要があると、最初にお伝えしました。
そこから数か月かけて対話を重ね、資金調達して短期間で一気に伸びるスタートアップ的なビジネスモデルより、しっかりと自分のやりたいことを形にして長いスパンで事業に携わっていくほうが越川さんの思い描く人生に合いそうだね、という方向になりました。
── 課題の難しかった点、苦労した点があれば教えてください。
越川:最初は「競合と比較してどうなのか」を意識しがちだったのですが、競合を意識しすぎると、独自性がなくなってしまうと気づきました。じゃあ、独自性ってどう打ち出していけばいいんだろうと考えたとき、どの方向に進んでも市場はありそうだけれど、どこに行くかという判断が難しかったですね。
テグミーがその市場に乗り込む意義を考えたとき、核心に迫る選択要件はもはや自己判断になるのかな、と。どの方向にも進めそうだからこそ決めきれず、判断に迷って沼にはまっていくような感覚がありました。メンタリングの中盤ぐらいのことだったと思います。
市村:そのあたりは、今後も継続して向き合っていかないといけない部分ですよね。事業の方向性やそのとき何を大事にしたいかは、外的環境の変化、触れる情報、手にする機会によって変わります。“ナマモノ”だからそういうもんだし、逆にそうじゃないといけない。
その中で、どこを見つめてどこに向かっていくかという軸を持って、その都度ちょっとずつ方向修正をしながら前に進んでいくことが大事です。手の打ち方、人の巻き込み方、お金の集め方などを状況に応じて変えていくために、今後も考え続ける必要があります。
越川さんが素晴らしいのは、トライアンドエラーの中でもどうやったら前に進めるかをしっかりと考えて、僕に伝えてくれることです。「こう変わってきました」と状況の変化を伝えてくれる人は多いけれど、越川さんは「こういう状況なので、自分はこうしよう/この方向に進もうと思っています」と意思を伝えてくれます。それができるのは、すごいし、強い。
単に行動力があるのではなく、考えてアクションする打ち手の多さや思考の深さが本当に素晴らしいなと思っています。
越川:ありがとうございます。考えてアクションし続けるという部分では、ウェブサイトの改修やパッケージのリニューアルに着手できました。ほかにも企業研修のワークショップに使ってもらったり、発達支援の施設に導入していただいたりもしましたね。
市村:越川さんは打ち手が多くて、本当にすごいです。僕自身も、非常に刺激を受けたし、勉強になりました。
「どのような人生にしたいか」に丸ごと向き合うメンタリング

── 今回のメンタリングで印象に残っているアドバイスがあれば教えてください。
越川:市村さんはメンターというより伴走者に近く、「自分ならこんなふうにやってみる」と提案をして、二人三脚で事業を作り上げてくれる存在ですね。多くのアクセラレーションプログラムだと投資対象になる事業を作ることにフォーカスされがちですが、市村さんは「どのような人生にしていきたいか」に丸ごと向き合ってくれます。
なので、その都度事業に関する具体的なアドバイスをもらいましたが、振り返ってみると、プラクティカルなアドバイスよりも気持ちや熱量のほうが強く印象に残っていますね。
── メンターの市村さんはどのようなことを意識して越川さんに接しましたか?
市村:何が正解かはやってみないとわかりません。ですから、正解につながるための選択肢をなるべく増やすこと、その中で越川さんがやりたいと思うものが見つかれば背中を押して一緒に進んでいけるように考えることを意識していました。
起業家の周りにはお金を出してくれる人や口を出してくれる人はいますが、実際のところ、やっぱり手が足りないんです。つまり、大事なのは、当事者として関わり一緒に手を動かしていくこと。ですから、先ほど越川さんに「伴走者」と言ってもらえたのは、僕にとっては最高の誉め言葉ですね。
もう一つ、事業を進めていく上で、「自分がどのようにありたいか」を常に意識していないと、事業と自分が一体化してしまうことがあります。すると、事業がうまくいかないときに自分自身が否定されているように感じて、自分をダメな人間だと錯覚してしまうんです。
そうなるとめちゃめちゃしんどくて、何のために事業をしているのか、どこに寄り添えばいいのか、わからなくなってきます。そうならないように、「事業・会社」と「自分がどのようにありたいか、何が好きで何に幸せを感じるのか」を分けて考えるようにしたいと思っていて、越川さんにもそれが伝わるように意識しました。
── プログラム全体を振り返って、ターニングポイントがあれば教えてください。
越川:もう、最初がターニングポイントだったかな、と。これまで、ある意味強引に事業を進めてきた中で悩んでいることを包み隠さず相談したところ、否定することなく受け止めてもらえたので、「あ、この場では何でも話していいんだ」と思えました。
学生起業のアクセラレーションプログラムに行くと、いわゆる「できるほう」に分類されてしまうので、言いにくいというか、リアルな相談を誰にすればいいのかわからなくて……。共同代表を除けば、初めて人生を含めた会社のことを話せる相手ができたのが、ターニングポイントだったと思っています。
市村:越川さんは、最初に話したときから「こんなふうに考えているけれど、それが正しいかわからない」「この点についてはどうしていこうか悩んでいる」といったように、悩みが自分の中でかなりまとまっていて、明確だったんです。
毎回しっかり整理して持ってきてくれるので、その都度「その判断認識はどういった背景から来ていますか」と尋ね、越川さん自身に言語化してもらいました。プロセスの部分を話すのって嫌なものなんですが、そこをしっかり話してもらえたのがよかったですね。
先ほど「この場では何でも話していいと思えた」と言ってくれましたが、そうした「場」を作れたのは、越川さんが最初からコミュニケーションを深く取ってくれたからにほかなりません。僕の話をきちんと聞いてくださって、その上で自分に必要なものを吸収していく構えを見せてくれたからこそ、信頼関係を作れたと思いますし、感謝しています。
越川:ありがとうございます。あと、「ここがターニングポイント」といえるほど明確ではないのですが、プログラムを通して、それまで切り分けていた市場を次第にグラデーションで捉えられるようになってきました。
市村:最初、療育の方面にグーっと入り込んで、強みを打ち出していこうかと話していたんです。そのアプローチは今も閉じていませんし、今後もやっていくことではあるんですが、越川さんが「自分のやりたいことを達成するには、特定のマーケットに深く入っていくことと、マスへのアプローチ、両方をやっていく必要がある」と気づかれたんですよね。
個別のアプローチとマスへの訴求を分断して考えるのではなく、テグミーを使ってユーザーにどんなふうに楽しんでもらえるかをグラデーションで考えられるようになったのだと思います。そこから仮説を立て、先ほど話していたウェブサイトの改修やパッケージのリニューアルというアクションにつなげていったのですから、本当に素晴らしいです。
物事の捉え方が変わり、やれることはいくらでもあると気づけた

── メンタリングも含め、今回の5か月間のプログラムはいかがでしたか?
越川:プログラム=メンタリングと言っても過言ではありません。メンターの方はそれぞれ専門分野が異なっていて、中間報告に行くと、テック系や士業といったプロフェッショナルのお話を聞けて、実際に見てもらえました。
過去に参加したことがあるアクセラレーションプログラムは起業家の方ばかりだったので、幅広く優秀な方がそろっているのはKOILならではだなと感じました。
── プログラム全体を通して、成長できたなと感じるポイントはどこでしょうか?
越川:先ほど市村さんが話してくださったように、商品が売れなくて自分が否定されたような感覚に陥ったときがあったのですが、「そうじゃないよな」と気づけて、事業と自分を同一視するのではなく、分けて考えられるようになりました。
自分の人生の一つのツールとして生み出したテグミーがあって、事業と会社があって……と考えると、自分にはまだ選択肢があって、やれることはいくらでもあるなと思えたんです。
捉え方次第といわれたらそうかもしれませんが、「選択肢がない」と勘違いしてしまう人はすごく多いと感じるので、そこを常にフラットに考えられるようになったのは、プログラムを通して成長できた部分かなと思います。
市村:この話って、越川さんだからハマったんですよ。事業が自分ごとになっていない人もたくさんいて、その人に「事業=自分にならないように」と言っても響きません。でも、越川さんは最初からレベルが高かったから、事業と自分を分けて考えるように伝えました。本当に、23歳でそんなに経験値があるのはチートですよ(笑)。
時間の経過とともに越川さんの成長、すなわち、ものを見る角度や掘りこむ深さが変わっていくところを隣で見ることができたのが本当に嬉しかったです。先ほどの「捉え方」の話でいうと、根を詰めて考えていく部分と、もう少しゆるめて自由に考えていける部分を両方持てるようになったのかなって思います。
越川:そこのメリハリは意識的に取るようにしていますね。
市村:枠にとらわれず、自由に考えられる余裕が出てきて、すごくいいと思います。一方で、やろうと決めたことをやり抜くスピードと質は落ちていなくて、素晴らしいです。
── プログラムでこんなこともできるとよかった、などあれば教えてください。
越川:最初のセミナーでは、簡単な自己紹介をするだけで、お互いをあまり理解しないままどんどん進んでいった感覚でした。他の参加者や市村さん以外のメンターの方々ともう少し深く関わる時間を持てたらもっとよかったかな、と思います。
市村:メンターは、自分の分野外だと、参加者は概要を話したいだろうと考えるので、概要を見てコメントしようとするんです。しかし、せっかく会計士や弁理士といった士業の方もいるのだから、スペシャリストとしての知見を伝える場があってもいいかもしれませんね。
── 今後の展望や柏の葉での実証実験の予定などがあれば教えてください。
越川:最終発表会を通して柏市役所の関係者やつくば市の方とつながることができたので、自治体と組んで子ども向けイベントができたらいいなと考えています。柏の葉の施設も有効活用して、最初のステップにできたら嬉しいです。
KOIL STARTUP PROGRAMについて
「KOIL STARTUP PROGRAM」は、柏の葉スマートシティにあるイノベーション拠点KOILにおいて、2022年より始動したスタートアップ支援プログラムです。 新産業創造を牽引するスタートアップの成長支援を目的に、KOILの無料利用、ビジネスプラン作成セミナーや個別メンタリングをパッケージ化したプログラムを用意しています。本プログラムを立ち上げることで、柏の葉スマートシティにおけるスタートアップの集積と事業成長、さらにはスタートアップ・コミュニティの醸成を促進し、柏の葉スマートシティにおける新産業創造をより一層加速していきます。
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