【レポート】 2024.10.2

「KOIL STARTUP PROGRAM 2024」中間報告会&特別講座 実施レポート

柏の葉の新産業創造を牽引するスタートアップの成長支援を目的とした「KOIL STARTUP PROGRAM 2024」(以下「KSP」)。多数の応募の中から選考を通過した3社のシード・アーリー期の技術系スタートアップが、現在プログラムに参加中です。

2024年9月10日に中間報告会が行なわれ、同日、スタートアップが初動期に頭に入れておいたほうがよい課題をメンターがレクチャーする法務・資本政策特別講座が開催されました。

今回は、講師を務めたメンターによる講座のハイライトと、参加者の感想を紹介します。

メンター陣による特別講座のハイライト

この特別講座は今年度から新たに盛り込まれたプログラムです。今回はスタートアップがつまづきがちなポイントに着目して、本プログラムの企画運営を担い、ディープテックスタートアップの成長支援に実績のあるTEP(一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ)より、木村康紀氏が「スタートアップの契約書の注意点」、山岸朝典氏が「資本政策と資金調達のポイント」をテーマに講義を行いました。


■ スタートアップの契約書の注意点

TEPメンター・日本橋東京法律事務所 弁護士
木村康紀氏

Q1. スタートアップの成長に置いてなぜ契約書に注意する必要があるのでしょうか?

契約書の内容次第では、将来の事業の幅を制約してしまうリスクがあるからです。

契約を締結すれば、もの(投資、人材、権利、物品等)が手に入ることが多いため、早く締結したい気持ちは理解できます。ただ、契約書に関するリスクは、締結後に気付いたときには取返しのつかない事態となって顕在化することも多いです。

講座でも紹介しましたが、出資検討の秘密保持契約というスタートアップにとっては良く締結する契約書でも、秘密保持の期間を短期にしてしまったためにトラブルになった例もあります。

それ以外にも実際の現場では様々なトラブルを見かけます。一度開示した秘密情報やアイディアを再び完全な秘密とすることはできません。また、一度渡してしまった権利や株式を返してもらうのは相当な労力がかかりますし、多くの場合、思い通りに返してもらえません。経営者が急に責任追及される可能性もあります。

契約関連のリスクは時間差で顕在化するものが多いため、締結時にはどうしても楽観的になりがちですが、専門家や周囲の人の指摘に耳を傾け、しっかりと対策を練ることが大切です。

Q2. シード・アーリー期が特に注意すべき点は?

たとえ小さな会社でも、法務の観点では大企業と同じ一当事者であるということです。

シード・アーリー期のスタートアップの方と話していると、自社はまだ小さく、費用がないからという理由で弁護士等の専門家へ相談されないで事業を進める方も見かけます。

しかし、将来的に第三者から多額の出資を受けようと思うのであれば、少なくとも外部から見て不自然ではない契約書を締結しておかないと、出資検討の段階で問題視され躊躇される可能性もあります。また、契約書としては一般的な内容であっても、それが自社の事業計画と合っていない場合にも問題が生じます。事業計画書上では自由に使えるはずの権利が、契約書の制約によって自由に使えなくなってしまったケースも見かけます。

取引相手は自身の利益を考えて動く訳ですから、小さい会社であっても自社で目指す将来像を決め、それに対して必要な対策を取るべきです。そのための知識が不足していたり、自身のみでは交渉できないのであれば、弁護士等の専門家へ協力を求めましょう。そのほうが結果的に良い条件を獲得できることも多いですし、仮に良い条件が獲得できなくても、自社のリスクを把握して先へ進むことができます。

なお特別講座では、費用面で専門家への相談をためらっている方に向けて、私なりの費用の節約術もご紹介しました。

Q3. 柏の葉・KSPで得られるメリットはなんですか?

現場で実際に活躍している専門家の支援を受けられることと、KOILを中心とした柏の葉のコミュニティに加われることだと思います。

個別のメンターは、現在も、スタートアップに限らず、様々な事業にアドバイスをされている方であったり、審査する側を担当している方です。この良さは、単に型にはまった見栄えの良い事業計画ではなく、参加者に合った事業計画を模索して作れることだと思います。

スポットでは、弁護士や弁理士、会計士、税理士等の専門家のフォローも受けることができ、事業計画に限らないリスクの検討も可能です。上記では厳しいことも言いましたが、実際は費用面を考え、専門家への相談を躊躇している方も多くいると思います。そのような方にとってこのプログラムは、次の段階に進むための支援を効率的に受けられる機会になるでしょう。

会社の経営は孤独になりがちですが、KOILを中心とした柏の葉のコミュニティに加わることで、同じ経営者目線の仲間やそれを支援しようとする会社、公的機関の担当者とも知り合えます。弁護士目線でも、そのようなコミュニティへの参加は、何かトラブルがあったときの精神的な支えや解決の糸口になることもありますので、大きなメリットだと思います。


■ 資本政策と資金調達のポイント

TEPメンター・池森ベンチャーサポート(ivs) 事業統括責任者/公認会計士
山岸朝典氏

Q1. スタートアップの成長においてなぜ資本政策に注意する必要があるのでしょうか?

スタートアップにおける資本政策は、企業の持続的成長と経営コントロールを維持するうえで極めて重要です。資本政策とは、資金調達の際に誰に株式を発行し、資本構成をどう管理するかを決定するプロセスです。これを適切に計画しない場合、創業者や初期メンバーの持株比率が大幅に希薄化し、結果として企業の意思決定や戦略実行に悪影響を及ぼすリスクがあります。

特に、エクイティファイナンスは「不可逆的でやり直しができない」という特性を持つため、慎重な対応が求められます。不適切な条件での株式発行や過度な希薄化が進むと、将来的に追加の資金調達が困難になる可能性もあります。一方で、適切に設計された資本政策は、成長段階に応じた柔軟な資金調達を可能にします。

そのため、スタートアップには短期的な資金ニーズだけでなく、長期的なビジョンに基づいて、戦略的に資本政策を策定することが不可欠といえます。

Q2. シード・アーリー期が特に注意すべき点は?

シード・アーリー期は、スタートアップの将来基盤を構築する重要なフェーズであり、プロダクトや戦略をさらに作り込むことが求められます。この時期において最大の懸念となるのが「株式の希薄化」です。この段階で過度に株式を発行すると、創業者の持ち株比率が大幅に希薄化し、将来的に経営のコントロールを失うリスクが潜在することになります。そのため、株式発行数や条件設定を慎重に検討し、長期的な事業プランに基づいた資本政策を策定することが不可欠です。

また、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)を単なる資金提供者として捉えるのではなく、彼らが持つネットワークや戦略的アドバイスを活用できる投資家を選ぶことも、事業の加速に有効なケースが多いです。こうした価値あるパートナーとなる投資家を見つけることが、スタートアップの成長にとって重要な要素といえます。

Q3.柏の葉・KSPで得られるメリットはなんですか?

資本政策は、企業のビジネスモデルや成長ステージによって最適解が異なり、慎重に検討する必要があります。基本的な留意点は共通しているものの、「どこまで許容できるか」「他にどのような代替案があるか」といった具体的な実行案は、企業ごとの状況により大きく変わります。

特にシード期では、CFOやファイナンスの専門家が社内にいないケースが多く、適切なアドバイスを提供してくれる経験豊富なサポートが必要です。

柏の葉・KSPでは、資本政策に必要な基本的な知識を学ぶだけでなく、各スタートアップの個別状況に応じたオーダーメイドのサポートが充実しており、壁打ち相手としての経験豊富な専門家とのディスカッションが可能であるという点が最大のメリットだと思います。

参加スタートアップの声

KSPに参加したスタートアップ3社は、2024年6月と7月にTEPビジネスプラン作成セミナーを受講し、7月下旬からTEPメンターによる個別メンタリングを受けています。参加して2か月が過ぎた現時点での感想と、特別講座の感想、今後の目標を伺いました。


株式会社GRIPS
代表取締役 森田康

Q1. KSPに参加して2か月が過ぎましたが、参加当初からの変化はありましたか?

メンターの方には、とても丁寧にメンタリングしていただいています。事業計画の実現確度を論理的に説明できているかどうかをよく見てくれ、ロジックの抜けや漏れを補強するためにはどのような内容を入れていけばよいか教えてくださるので、非常に助かっています。

KSPに参加して最初にプレゼンをしたときは、事業計画の蓋然性について指摘されました。弊社は無償で一般公開されているオープンソースソフトウェアを活用し、汎用的で再利用性の高い、制御システムの提供を目指しています。その際に問題になってくるのは、参入障壁の低さや、競合他社の存在、オープンソースのライセンス規定です。

メンターの方は近しい事業における事例をアナロジー(類推)にして持ってきて、私の事業に照らし合わせ、成功する要素がどこにあるのかを提示してくれました。ストーリーとして何が必要なのかを壁打ちしてもらい、抜けや漏れのあった部分を補強してもらったことで、事業計画の蓋然性を高められたと感じています。

Q2. 特別講座の感想を教えてください。どのような学びや気づきがありましたか?

今回木村さんから「経営者は危険なものを直感的に判断することを大事にした方がいい」というお話を聞き、今までにないアプローチだと感じました。

契約書にさらっと書かれていることが落とし穴になると聞いて、ハッとしました。担当者ベースで合意できていたとしても、本部の方が付け加えた内容が実は違ってるケースも実際のビジネスの中であり得るでしょう。それを直感的に見抜く力が重要だと認識しました。

山岸さんの資本政策に関するお話は、私の知識が乏しい分野だったため、すべてを吸収できたとはいえません。しかし、コンバーティブルエクイティ、J-KISSによる資金調達の手法はとても勉強になりました。

資金調達をするうえで、企業の成長度合いを示す数字を出した後、プレゼンでそれを超える誇張表現をしてしまうと資金調達が厳しくなるというのも、よく理解できました。そういった話は技術経営の専門職大学院でも聞いたことがなく、やはり専門家から直接話を聞けると学べることが多いと感じました。

Q3. 残りのプログラムで達成したいことや、プログラム後の目標を教えてください。

自社製品提供の前に、プロダクトマーケットフィットの達成を測ることが当面の目標です。そのため、付き合いの深い大手自動車メーカーの複数拠点に対してフィードバックを求める営業活動を行なっています。

現時点で、大手自動車メーカーの複数拠点の方から、フィードバックの約束をいただいたので、プロトタイプをリリースしたら貸し出しをし、実際のニーズに即しているかを確かめていきたいと考えています。一度きりではなく、定期的にお話を聞きながらアジャイル的に改善したものを出していくつもりです。

また、柏の葉でKSPに参加したことで、実証実験の場を持てることも期待しています。自社製品を立ち上げるにあたり技術部の人的リソースが必要となりますが、そのときにアカデミアの方との接点を持てることがメリットになるのではないかと考えています。


株式会社emome
代表取締役 森山穂貴

Q1. KSPに参加して2か月が過ぎましたが、参加当初からの変化はありましたか?

弊社の場合、もともとビジネスプランは組みあがって動いていたため、KSP参加後に何かをリサーチして検討したり、プランを作成したりということはしていません。

メンターの方には、経営者として気持ちに寄り添ってもらい、今回のプログラム内容に限らず、もともとの稼業とグルーピングしていくようなサポートも含めて、難しい意思決定の後押しをしていただいていると感じています。一般的には相談できないようなことも聞いていただいて、新しい事業の進め方が見えてきました。

弊社は東京大学のメンバーが中心となって創出した企業です。柏は私たちにとっても重要なエリアですし、柏の葉が新しい日本の都市のモデルになっていくことを強く願っています。未達ではありますが、今回のプログラムを通じて、そのスマートシティの中に先進した高齢者のための介護モデルを築いていくことが目標です。

Q2. 特別講座の感想を教えてください。どのような学びや気づきがありましたか?

木村さんから契約書の注意点を聞き、改めて契約書を交わすことの大切さを痛感しました。人間なので、早く取り組みを始めたい、早くお金がほしいといった気持ちは当然ですが、リーガルな部分をスキップしてしまうと、何かあったときに後悔することになります。

それは自分たちのみならず、お客様にとっても言えることでしょう。会社の規模に関わらず契約書は必要ですが、特に小さなスタートアップにこそ重要なものだと感じました。

また、弁護士事務所と契約する場合の料金も参考になりました。想像していたよりもずっと現実的な料金だったので、いざというときのために弁護士事務所と契約を結ぶことを考えてもよいのかもしれないと思いました。

資本政策に関しては、私自身もともと好きな分野で、それなりに知識もあったので、楽しく聞けました。なかでも、全体として市況が悪くなっている中で、海外という視点を持つのは面白いと感じました。海外のスタートアップと日本のスタートアップでは、システムもバリエーションも大きく異なるので、そこを理解しておくと今後海外展開を考える上では役に立ちそうです。

Q3. 残りのプログラムで達成したいことや、プログラム後の目標を教えてください。

今回のプログラムで、まだ達成できていないのが「柏の葉」というポイントです。単に事務所が柏の葉にあるというだけではなく、私は新しい日本のスマートシティとしての柏の葉を尊重したいと思っています。

世界的なスマートシティのイメージは、すべてがデジタル化されて、あらゆるものが電気で動き、カーボンニュートラルの実現を目指すといったものでしょう。しかし、日本においては高齢化という観点は切り離せません。私はスマートシティとしての柏の葉に、日本独自の高齢化の観点を盛り込んでいきたいと考えています。

柏の葉エリアには、駅周辺に住んで東京都内に通勤している方が多いです。そうした方々の介護離職の問題は、これからますます増えていくと思います。育児は一定の期間が過ぎれば手が離れますが、介護の場合はそうはいきません。柏の葉からその問題に対する取り組みを始めていけたらいいですね。

残りのプログラム期間でその構想を練っていくつもりですが、例えば、行政のスタートアップ担当と連携し実証実験をしていくことなどができれば、目標に一歩近づけると考えています。


Autonomic Intelligence株式会社
代表取締役社長 中島義和

Q1. KSPに参加して2か月が過ぎましたが、参加当初からの変化はありましたか?

KSPでは参加者とメンターだけに限らず、外部も含めて交流ができ、非常に濃い内容です。講義も一方通行ではなくインタラクティブで、講師の方々がやりとりを重視してくださっていると感じています。

前職では経営企画にも携わっていたので、「こういうことをすればお金になるのではないか」という勘所は心得ていましたが、キャッシュフロー、たとえば、資本の獲得方法やベンチャーキャピタルとのやりとり、雇用や法律に関する内容、役所との交渉といったことはまったく経験がありませんでした。KSPに参加して、いかに全体が見えていないかを痛感しました。

メンターの方は、ビジネスプランに対して「ここが弱い」「ここはもっと詰めたほうがいい」と歯に衣着せぬ表現でダメ出しをしてくれます。私はそれなりにキャリアを積んできていることもあり、起業してから強烈なダメ出しをもらう機会がほぼなかったので、「まさにこれが欲しかった!」と思えるものでした。

KSPはスタートアップにとって重要だと思われることを包括的に提供してくれているので、ここで学べば一通りの知識を吸収できることになるという安心感があります。

Q2. 特別講座の感想を教えてください。どのような学びや気づきがありましたか?

木村さんの契約書に関する特別講座では、「これをしたらダメ」「こういうふうに騙される」といった具体的な事例や、気を付けるべきポイントを整理して教えていただけたので、非常に参考になりました。

弊社では、IT分野、とくに実務で使えるAIシステムおよび複雑すぎるITシステムのスリム化にかかる事業を営んでいるので、特許の権利を奪われることが一番の痛手になります。私自身が技術研究者でもあるので、自分の特許を自分が使えない事態になってしまうことは絶対に避けたいです。学んだ内容を、今後の交渉や契約に活かしていきたいと思っています。

山岸さんの資本政策に関する特別講座でも、特許や技術権利のところが参考になりました。私たち技術者と、投資家の方々が見ているものの違いを認識できたのもよかったです。投資家の方々は早期に利益確定したい意識が強いので、その行動にこちらが巻き込まれてしまう可能性があると理解できました。

また、どのタイミングで新しい技術をローンチ/発表し、誰からどれだけの資金を得るのかというステップを明確にすることで、資金計画の確度を高めていけると学べました。

Q3. 残りのプログラムで達成したいことや、プログラム後の目標を教えてください。

当面の目標は、資本を安定させて、事業が回るようにしていくことです。来年夏までに資本を調達するためには、春にはFPGA※ができていて、横展開をしていける状態になっている必要があります。このプログラムに参加し、メンターの方に相談できたことで、技術面でのマイルストーンが明確になりました。

横展開については、すでに問い合わせがたくさん来ているので、事業としてキャッチアップしていきたいです。そのためにも人を増やす必要があり、当面の資金調達が肝となります。弊社は東京科学大学(旧 東京医科歯科大学)発スタートアップなので、その強みを最大限に活かし、ネットワークを使ってさまざまな取り組みをしていきたいと思っています。

※Field Programmable Gate Arrayの略称。実際に使用するフィールド(現場)で論理回路の構成をプログラムできるゲート(論理回路)を集積したデバイス。

最終報告会のご案内

2024年10月29日、4か月に渡る個別メンタリングのプログラムを終えたスタートアップ3社による最終報告会(事業プランのプレゼン会)が、柏の葉・KOILにて開催されます。彼らが何を学び、何を実現させたのか。現地でリアルな感想を聞いてみたい方は、下記までご参加希望のご連絡をください。

KOIL STARTUP PRPGRAM 最終報告会
⇒ 参加申込フォーム(Peatix)

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