妄想から仮説へ。新事業のストーリーをロジカルに描き出せた4か月間

参加企業 | 株式会社GRIPS |
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事業概要 | 小型ロボットアームとオープンソースソフトを組み合わせた比較的小規模で安価な工程自働化の提案をメインに、主に製造業向けの生産性向上支援を行う。また、次世代STEM人材育成のための教材開発、講習会などの企画、運営にも携わっている。 |
プログラムで得た実績 |
・他者分析のKSFから、自社の強みを活かしたビジネスモデルを再整理できた ・ロジカルな事業ストーリーを描けるようになり、資金調達への道筋が見えた ・ビジネスコンテストの選考通過率が上がった |
柏の葉の新産業創造を牽引するスタートアップ支援「KOIL STARTUP PROGRAM 2024」では、約4か月間にわたってスタートアップの事業成長を後押ししてきました。
今回は、オープンソースソフトウェアの活用により汎用的で再利用性の高い制御システムの提供を目指す「株式会社GRIPS」代表取締役の森田康氏に、TEPメンター 重松崇志によるメンタリングの感想、全プログラムを終えて感じること、今後の展望を伺いました。
株式会社GRIPS 代表取締役 森田康 氏
(米)大手半導体企業、(独)車載用組込システム開発企業にて技術、マーケティング、営業職を経験、国内電子パーツベンダーにてロボット事業の立ち上げを担当後、2019年に株式会社GRIPSを創業。ロボットとオープンソースソフトウェアを組み合わせた工程のスマート化、ラボラトリーオートメーションを提案。システムインテグレーションの知見を基にした次世代STEM人材育成、リスキリング教材の開発を手がける。現在は汎用ロボットコントローラ”ROSSetter”の開発と事業化に取り組んでいる。
TEPメンター 重松崇志 氏
金融機関での営業、総合コンサルティングファームで経営コンサルティング、M&Aアドバイザリーの経験を経て、現在はフリーコンサルタントとして活動。経営コンサルタント、コーチング、スタートアップメンター、研修・トレーニング講師。複雑化する経営課題に対して、一般論に閉じず、経営者に寄り添う共創型を信念として掲げ、伴走支援を通してアウトプットとプロセスにコミットするスタイルで支援を実施。
新規性の高いコンセプトを、論理的な計画へ落とし込む

── メンタリング開始時、お互いの第一印象はいかがでしたか?
TEPメンター 重松崇志 (以下「重松」):僕はロボットの事業でメンタリングをするのが初めてで、面白いテーマだなと思いました。最初に会ったとき、ビジネスの話をいろいろと聞かせてもらい、特に印象的だったのが「海外展開を目指したい」という言葉です。
目線をどこに持っていくかによって、メンタリングのやり方を変える必要があります。森田さんが本気で海外展開を見据えているのが伝わってきたので、それに合ったビジネスプランを一緒に作っていきたいと思いました。
株式会社GRIPS 代表取締役 森田康 (以下「森田」):最初のレクチャーのとき、重松さんがロジカルシンキングについて話してくれたのが印象に残っています。頭ではわかっているつもりでしたが、それは所詮「つもり」に過ぎず、自分の事業計画に当てはめて考えることを怠っていたと痛感しました。
「誰も予想できない新事業を行うのだから、蓋然性が低くても仕方ない」と言い訳をして、コンセプトを論理的に事業計画へと落とし込めていなかったのです。だれかの事業を深く理解するのはとても難しいことだと思うのですが、重松さんは早い段階で事業計画の弱いところを見つけて指摘、指導をしてくださり、ありがたかったですね。
蓋然性が低いままビジネスを進めてしまうと、失敗する確率がとても高くなります。しっかり事業計画を作ったからといって必ず成功する世界ではありませんが、成功の可能性を高めていくプロセスがいかに重要か気づくことができました。
かつてお客様から、ロボットのシステムインテグレーション(情報システムの構築)は、「だろうシステム」ではなく「のはずだシステム」にしないと動かないと教えてもらったことがあります。「こうなるだろう」ではダメで、「こうなるはずだ」を積み上げていかないとうまくいかないのは、事業計画も同じだと思います。
重松:絵に描いた餅という言葉がありますが、鮮明な餅を描くことさえできないようでは、事業計画にはなりません。市場がないところに新しい価値を創り出していこうとするとき、外部環境はないがしろにしていいものではなく、ありものをかき集めたときにどういう世界になるのかを想像していくことが大切です。
僕たちの業界的に言えば、森田さんが言ってくれた「だろう」は「妄想」で、「のはずだ」は「仮説」なんです。単なる思い付き(妄想)を研ぎ澄ませ、深め、ありものをかき集めて相手を説得させられるところまで持っていって、初めて仮説を立てることができます。
── 約4か月間のメンタリングで、参加当時の課題を解決できましたか?
森田:いま新しいプロダクトを作ろうとしているのですが、それを社会に出していくためのプロセスとして、PMF(プロダクトマーケットフィット)の前段階に、PSF(プロブレムソリューションフィット)があることを学びました。目指す状態に到達するためにはどんなステップを踏んでいけばいいのか明確になったのは、一つの課題解決と言えそうです。
── 課題解決のポイントと、どのように解決したのか教えてください。
重松:森田さんには高い技術力と業界に関する深い知見があり、特定の会社との実績もあり、次世代STEM人材育成のための教材開発、講習会などの企画運営にも携わっています。すごいスペシャリストであることは間違いないのですが、私を含め世の中の多くの人には、そのすごさがなかなか伝わりません。これは非常にもったいないですよね。
これまでにない新しいものを作っていくビジネスモデルですから、多くの人に興味を持ってもらい、ファンを増やしていくためには、森田さんがやっていることを抽象化し手触り感のあるものにしていく必要があります。メンタリングではその課題を解決すべく、森田さんの想いを言葉にし、資料にストーリーに落とし込んでいくことを意識しました。
技術に強い森田さんはプロダクトアウトの発想が強いので、マーケットインの視点をあわせ持つことでビジネスモデルを拡張させていけると考えたからです。
伴走型メンタリングで「アナロジー思考」を実践

── 今回のメンタリングで印象に残っているアドバイスがあれば教えてください。
森田:たくさんありますが、蓋然性を高めるために既に事業として成功している先行事例からアナロジー(類推)を発見していこうというアドバイスはインパクトがあり、最終プレゼンにおいても重要なキーになりました。参考になりそうな複数の成功事例からファクトを抽出し、アナロジー思考で成功要因を抽象化して、ビジネスモデルを再構築していく方法がとても勉強になりました。
重松:森田さんが作ろうとしているのは今はまだないサービスなので、別の業界で似たようなサービスコンセプトで成功した例をお伝えしました。20〜30年前の別業界の話なのですが、ある企業が独占していたマーケットに、ミドルウェアのサービスで参入していった事例があるんです。
過去の事例が今の事例にぴったりはまるかどうかはわかりませんが、そこにヒントが隠れているのではと考えました。過去の事例からKSF(キーサクセスファクター/重要な要素)を抽出・整理して、森田さんのビジネスに置き換えたらどうなのかを議論しました。
森田:そのとき整理した3つのポイントは、オープンソースを使ったビジネスモデル構築、販売代理店を通じて顧客とつながるエコシステムの形成、そして、ロングタームサポート(ソフトウェアの特定のバージョンを長期間安定的にサポートすること)の技術です。
アナロジー思考は知識レベルでは知っていたものの、実際に自分の事業にそれを当てはめてビジネスモデルを作り込んでいくのは初めての体験でした。
ビジネススクールのレクチャーとはまるで違っていて、これが本当の意味の「伴走型メンタリング」なのだなと感じました。スクールでは整ったケーススタディを扱うので、落とし穴が見えません。しかし、実際にやってみるとあちこちに落とし穴が出てくるので、伴走していただいた価値が大きいと感じました。
── メンターの重松さんはどのようなことを意識して森田さんに接しましたか?
重松:森田さんの場合、実績もあり、コアなお客様もいて、すでに複数のパートナーさんと協業されていて、ビジネスモデルの骨格はしっかりされています。ですので、「いい素材をどうやったらより多くの人に知ってもらえるか」という視点でメンタリングを行いました。
今後、資金調達をされることもあるでしょうから、どうしたら投資家の方々にインパクトを与えられるのか、魅力を伝えられるのか、などについても話しました。
よかったなと思っているのは、東葛テクノプラザにある森田さんのラボを訪ね、ロボットアームの実物を見せてもらって、ビジネスモデルの解像度を高めて議論ができたことです。また、KOILで実際に会って、一緒にホワイトボードに書いては消し書いては消ししながら話をしました。対面で悩むプロセスを共有できて楽しかったです。
森田:リモート(オンライン)の会話は創造的な議論にはあまり向いていないと思うので、リアルの場で話し合えてすごく助かりました。
── プログラム全体を振り返って、ターニングポイントがあれば教えてください。
森田:プログラムの最初に、ほかのメンターの方から「事業計画の蓋然性が低い」と助言をいただいたのですが、よく理解できず、「そんなこと言われてもな」という気持ちでした。しかし、重松さんとの会話をきっかけに「はっきりとした餅を描ける」ようになりました。
だれもが納得できるロジカルなストーリーを作り上げないと成功しないと納得し、取り組むべきことが明確になったのがターニングポイントかもしれません。
重松:ターニングポイントとなる特定の出来事があったわけではなく、数か月かけて真剣に議論し、コツコツ磨いてきたからこそ、森田さんはここまで成長されたと思っています。
ビジネスの解像度が上がり、構想を伝える機会も増加

── 今回の4か月間のプログラム全体に対してどんな感想を持ちましたか。
森田:かなり具体的なプログラムで、自分のやりたいことに寄り添っていただけたと感じています。世の中には、メンタリングサービスを謳いながら、実際には一方的なレクチャーやセミナーの域を出ないケースも多いですが、KSPは専門性の高いメンターの方が自分の事業計画を深く理解し、一緒にブラッシュアップしてくれたので、感激しました。
重松:TEPのメンバーは、僕を含めて、密に議論をしながら一緒に創り上げていくプロセスが好きな人が多いんです。それに、スタートアップの皆さんが何を考え、どういったことを成し遂げようとしているのかを知れるのは、僕にとってもメリットがあります。大企業とは異なる思考プロセスや行動力を体感でき、そこから学べることは多いですから。
── プログラムを通して達成できたことを教えてください。
森田:PMFに向けてお客様に対して構想を伝える機会が増えました。「これを売りたい」が先に来ると、技術畑の人になかなか話を聞いてもらえません。しかし、「自分たちはこういったものを研究・開発していて、事業化しようとしています」と伝えると、興味を持って耳を傾けてくださるお客様が思った以上に多かったんです。
できあがってきた事業計画を説明したCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)のうち、2社から継続的に話をする機会をいただきました。
また、以前はビジネスコンテストにエントリーしても書類選考で落ちることが多かったのですが、事業計画の解像度が高まったことで、打率が上がってきたと感じています。
スタートアップが陥りがちな債務超過の抜け出し方や、挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)の制度、補助金の使い方などについて教えていただいて、財務知識を身につけられたのも成果といえるでしょう。
── プログラムでこんなこともできるとよかった、などあれば教えてください。
森田:プログラム上やむをえないとは思いますが、事業計画がある程度できあがってきて、ここからフィールドでフィードバックをもらいながらプロダクトを作り上げていくフェーズなのに、もう関わっていただけないのが残念です。終わってしまうのに未練がありますね。
※柏市に本社がある企業は、柏市のスタートアップ相談窓口&登録メンターの制度を活用し、登録メンターによるメンタリングを受けることが可能です。KSPのメンターは、柏市の登録メンターでもあり、該当企業は継続的なメンタリングが可能です。
重松:スタートアップの皆さんのマイルストーンとプログラムの期間が一致するわけじゃないですもんね。こればかりは仕方がないですが、KSPの期間で区切って「プログラム終了時にはどんな状態になっていたいか」という目標を最初に設定するとよいのかもしれません。
── 今後の展望や柏の葉での実証実験の予定などがあれば教えてください。
森田:せっかくスマートシティにいるので、システムの実証実験をやってみたいと思っています。たとえば、アバターロボットがお買い物支援をするようなシステムを作って実証実験をすれば知見がたまって適応の幅が広がりますし、マーケットの拡大にトライできるかもれません。柏の葉にはそうした試みを前向きに捉えてくれる人たちが多いと感じています。
また、弊社では現在、ロボット制御やプログラミング教材、VRと連携したUI開発のほか、ウェブサイト用の動画コンテンツ作成などを助けていただくインターン生を若干名募集中です。弊社のインターンシップの特徴は、実務にじっくり向き合っていただくことにあります。インターンシップ終了後には、希望者に就職活動にご利用いただける推薦状を発行いたします。是非、y.morita [at]grips.co.jp ([at]はアットマークと置き換えてください)までお気軽にご連絡ください。
KOIL STARTUP PROGRAMについて
「KOIL STARTUP PROGRAM」は、柏の葉スマートシティにあるイノベーション拠点KOILにおいて、2022年より始動したスタートアップ支援プログラムです。 新産業創造を牽引するスタートアップの成長支援を目的に、KOILの無料利用、ビジネスプラン作成セミナーや個別メンタリングをパッケージ化したプログラムを用意しています。本プログラムを立ち上げることで、柏の葉スマートシティにおけるスタートアップの集積と事業成長、さらにはスタートアップ・コミュニティの醸成を促進し、柏の葉スマートシティにおける新産業創造をより一層加速していきます。
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