【スタートアップ&メンター対談】 2025.1.30

事業の本質をわかりやすく伝える。メンタリングで獲得できた「起業家マインド」

参加企業   Autonomic Intelligence株式会社
事業概要 IT分野、とくに実務で使えるAIシステムおよび複雑すぎるITシステムのスリム化にかかる事業。医療と研究開発分野を軸にしながらも、ビジネス、社会課題解決など幅広い分野での貢献を目指します。
プログラムで得た実績 ・ビジネスに重要な視点を学び、経営の勘所をつかむことができた
・難解な事業内容をわかりやすいストーリーへと落とし込めた
・プレゼンが改善され、投資家やステークホルダーへの説明がクリアになった

柏の葉の新産業創造を牽引するスタートアップ支援「KOIL STARTUP PROGRAM 2024」では、約4か月間にわたってスタートアップの事業成長を後押ししてきました。

今回は、汎用AIの社会実装を目指す「Autonomic Intelligence株式会社」代表取締役社長の中島義和氏に、TEPメンター 尾﨑典明氏によるメンタリングの感想、全プログラムを終えて感じること、今後の展望を伺いました。

Autonomic Intelligence株式会社
代表取締役社長 中島義和 氏

TEPメンター
尾﨑典明 氏

2004年九州工業大学大学院・工学研究科物質工学専攻修了。コンサルティング会社にて企業の新事業・新商品開発支援に携わる。2009年S-factory創業、企業に加え、自治体、NPO、スタートアップに対し支援を行う傍ら、官公庁等のアドバイザー等歴任。

業種業態問わず、またその事業ステージによらず、それぞれの課題に応じた支援を実践。TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事、おもにディープテックスタートアップの支援を行う。NEDO スーパーバイザー、K-NIC スーパーバイザー、中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザーの他、筑波大学 客員教授、北陸先端科学技術大学院大学 客員教授を兼務。

「何が足りないのかわからない」という悩み

── メンタリング開始時、お互いの第一印象はいかがでしたか?

TEPメンター 尾﨑典明氏 (以下「尾﨑」):最初は「東京科学大学の教授だし、堅い人なのかな」と思ったんです。でも、プログラムを進めるうちに、コミカルなエピソードも出てくるし、話してみると柔軟で、メンタリングでも飲み込みが早くて、印象が変わりました。

Autonomic Intelligence株式会社 代表取締役社長 中島義和 (以下「中島」):オンラインで参加をしたビジネスプラン作成セミナーで話したときの尾﨑さんの印象は、「陽キャでパワフル」でしたね。初対面がオンラインの場合、お互いに腹の探り合いをして沈黙が生まれることがありますが、それが全然なくて、強烈に明るくエネルギーあふれる方だなと思いました。

── 約4か月間のメンタリングで、参加当時の課題を解決できましたか?

中島:期待を超えて、大部分を解決できていると思います。私は大学院を出てから3年間、会社に勤めていたことがあるのですが、たかだか3年ではビジネスは理解できません。知識が歯抜けの状態になっているのはわかっても、何が抜けているか自分でわからないのです。

そんな状態で参加しましたが、KSPは経営の素人である私たちスタートアップにとって必要なものが余すところなく盛り込まれたプログラムだったので、「自分にはその観点がなかったな」「ここが抜けているな」と確認ができました。すべてを理解できたとは言えませんが、自分に足りないものが何であるか、勘所をつかむことができたのは大きな収穫でした。

また、私は学会や大学の講義で話すことには慣れていますが、一般の方向けにプレゼンすることには慣れていません。何をどんなふうに話したらいいかわからずに悩んでいましたが、尾﨑さんにストーリーラインを組み立ててもらい、「このように説明すると伝わりやすい」とアドバイスをもらえたのが、本当にありがたかったです。

尾﨑:中島さんは、海外展開も含めた非常に大きな目標を持っていますが、そこへ一足飛びではいけません。最終的な目標に到達するにはどのようなプロセスを踏んでいけばよいか、ファイナンスも含めてポートフォリオの考え方を伝え、クリティカルな判断に基づいてどこが足りていないのかを話しました。

── 課題解決のポイントと、どのように解決したのか教えてください。

尾﨑:現在AIおよびそれらを用いたDXの流れは急速に発展してきていますが、未だデバイスやセンサなどは相互に賢くはつながっておらず、ストレスなく真に人の営みを支える基盤となるためには、エッジでの処理やネットワーク、通信がスタックしてしまうのは明らかです。中島さんの事業はその分野における新しいアーキテクチャの提案で、今までにない切り口のチャレンジです。面白いと思うのと同時に、「一般の人に向けて伝えるのは難しいな」とも感じました。

中島さんは、自分の構想を世界規模で見たときのポジショニングもよくわかっています。東京科学大学でシミュレーションを行い、すでに医療現場で試用されています。実績は十分で、壮大な構想も決して荒唐無稽なものではないのですが、それをベンチャーキャピタルにそのまま伝えても、夢物語のように受け取られてしまいそうで……。

技術も、構想も、難解なことを一般の人にもわかるように平易に伝えることは難しいです。難解なことを平易に伝えようとすると、細かな説明が端折られ、特に研究者などは相手をミスリードしてしまう恐れを抱いたり、十分に説明ができない、下手すると嘘をついてしまっているのではないか?と捉えがちです。ですが、今回のようなビジネスプランは見せる対象が技術等にあまり明るくない人たちになるので、細かな丁寧すぎる説明よりも、事業の本質、幹を理解してもらうことを優先して説明する必要があります。ですから、思い切って枝葉ではなく幹の部分を理解してもらえるように、伝えるべきことを整理して、シンプルにストーリーを組み立てていきました。

本質を理解して平易な言葉に置き換える翻訳作業

── 今回のメンタリングで印象に残っているアドバイスがあれば教えてください。

中島:重要なアドバイスがたくさんあって、どれか1つを選ぶのは難しいですね。しいて言えば私のやろうとしていることの本質をシンプルな言葉で表現していただき、自分自身も「あっ、自分のやろうとしていることはそういうことだったんだ」と腹落ちしたところですかね。

尾﨑:中島さんが作ろうとしているのは、ネットワークが人間の介在なしに全部把握して、アクションを起こしてくれるという未来です。多くのプレイヤーがそうした未来を目指して課題に取り組んでいますが、構造上、破綻をきたしているロジックも少なくありません。

中島さんは、「DXの管理制御は人の手に負える範囲を超えている」という考えに基づき、そのロジックとは異なるアプローチを提案しています。しかし、そこにどのような価値があるのか、そのまま難解な言葉で話しても伝わりません。多くの人に興味を持ってもらうために「本質を理解して平易な言葉に置き換える」という翻訳作業が必要だと話しました。

── 尾﨑さんはメンターとして、どのようなことを意識して中島さんに接しましたか?

尾﨑:中島さんは大学教授ですから、新たに起業家のマインドを獲得する必要があります。もちろん事業は結局のところ自分でやらなくてはなりませんから、僕があまりテコ入れし過ぎてもいけません。とはいえ、限られた期間で最大のものを持ち帰ってほしいので、基本的には自発的、自律的に行動することを求めつつ、バランスを見て適切なサポートをするように心がけました。

── プログラム全体を振り返って、ターニングポイントがあれば教えてください。

中島:中間報告会の前に直接尾﨑さんにお会いして、大きなテコ入れをしてもらいました。そのとき「言っていることはわかるけれどその説明では人に伝わらない。言いたいことも多すぎるからもっとシンプルにしないと」と率直なアドバイスをいただき、気づきを得たのがターニングポイントといえるかもしれません。

尾﨑:一度リアルで話してからのフィードバックは情報量も増えますよね。ほかのメンターにも実際に会って、「やっぱりその部分が足りていないんだ」と気づくきっかけになったのかなと思います。そのテコ入れのあたりから、中島さんが変わってきました。

話すポイントを整理して構想を伝えられるように

── 今回の4か月間のプログラム全体に対してどんな感想を持ちましたか。

中島:最初に話したように、スタートアップ向けに必要なものがもれなく盛り込まれているプログラムのおかげで、「足りないものがあることは自覚しているが、何が足りないのか、どうしたらその穴を埋められるのかわからない」という状態から抜け出せました。一人ではどこがわからないのかわからないままだったと思うので、参加して本当に良かったです。

── 今回達成できた成果があれば教えてください。

中島:プログラム期間中、イギリスやアメリカに行って投資家の方や大学の方と話す機会がありました。メンタリングを通して自分の足りない部分に気づかせてもらい、資料も直してもらったことで、彼らの前で行うプレゼンの内容をブラッシュアップできました。

言いたいことが多くある中で重要なところとそうではないところを見極め、話すポイントの整理ができるようになったのは、大きな成果だと思っています。

── 今後の展望や柏の葉での実証実験の予定などがあれば教えてください。

中島:まずは資金調達をしてプロダクトを完成させることが最優先ですが、柏の葉には多くのスタートアップが集まっているので、今後KOILにいる方たちと積極的に連携、協業していきたいです。協業までいかなくても、ホームページ改修等ライトな作業を委託するなど、事業の様々な場面でKOILのつながりを活用していけたらいいですね。まさに現在デザイナーさんを探しているので、今回の参加をきっかけに良い出会いがあればいいなと思っています。


KOIL STARTUP PROGRAMについて

「KOIL STARTUP PROGRAM」は、柏の葉スマートシティにあるイノベーション拠点KOILにおいて、2022年より始動したスタートアップ支援プログラムです。 新産業創造を牽引するスタートアップの成長支援を目的に、KOILの無料利用、ビジネスプラン作成セミナーや個別メンタリングをパッケージ化したプログラムを用意しています。本プログラムを立ち上げることで、柏の葉スマートシティにおけるスタートアップの集積と事業成長、さらにはスタートアップ・コミュニティの醸成を促進し、柏の葉スマートシティにおける新産業創造をより一層加速していきます。


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