【スタートアップ&メンター対談】 2023.3.22

「やりたいこと」の山から「今やるべきこと」を明確化できた5ヶ月のメンタリング

株式会社Redge 代表取締役 稲垣 大輔 氏
株式会社Redge サポートメンバー 中山 正光 氏
TEPメンター 重松 崇志 氏

柏の葉の新産業創造を牽引するスタートアップ支援「KOIL STARTUP PROGRAM 2022」では、3社のスタートアップを迎え入れ、半年間にわたって各社の事業成長を後押ししてきました。

今回は、途上国向けの医療機器管理教育システムの研究開発などを通して、医療現場の課題解決や地域による医療格差の解消を目指す「株式会社Redge」のメンバーにインタビュー。代表取締役の稲垣大輔氏、同社サポートメンバーの中山正光氏に、TEPメンター重松崇志氏によるメンタリングの感想、全プログラムを終えて感じること、そして今後の展望を伺いました。

株式会社Redge  代表取締役 稲垣 大輔 氏

途上国への医療支援を通して、現地の医療課題を認識したことで、神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科に進学。
医療機器開発プロセスを学べる東京大学バイオデザインフェローシッププログラム修了し、アジア・アフリカ向け医療機器開発も目指している。JHeC2022アイデア部門グランプリ受賞。

サポートメンバー 中山 正光 氏

大学院博士課程において血栓研究に従事。
医療機器開発プロセスを学べる東京大学バイオデザインフェローシッププログラムを修了、アジア・アフリカ向け医療機器支援プロジェクトで代表の稲垣と出会う。
本当に困っている人へ適切な医療支援を実現したい、というビジョンに共感し、サポートメンバーとして参画。

重松 崇志 氏

フリーランス 経営コンサルタント
金融営業、総合系コンサルティングファームでの経験を経て、現在は個人事業主として活動。経営コンサルタント、コーチング、スタートアップメンター、研修・トレーニング講師。複雑化する経営課題に対して、一般論に閉じず、経営者に寄り添う共創型を信念として掲げ、伴走支援を通してアウトプットとプロセスにコミットするスタイルで支援を実施。

「やりたいこと」の山から「今やるべきこと」を選び出す

── メンタリング開始時、お互いの第一印象はいかがでしたか?

TEPメンター 重松崇志(以下「重松」):「お、いい二人が来たな」と思いました。稲垣さん・中山さんのそれぞれから自信が感じられ、すごく積極的に活動されているのだろうな、という印象を持ったんです。それと、きっといいチームなんだろうなとも思いました。ぐいぐい話を進めていく稲垣さんと、ロジカルに考えようとする中山さん。アクセルとブレーキのような組み合わせですから。

株式会社Redge 代表取締役 稲垣大輔(以下「稲垣」):粘り強く向き合ってくださる方だな、というのが、重松さんの第一印象です。「ここまではわかる。でもここはわからない」と、きちんと言ってくださる方。

株式会社Redge サポートメンバー 中山 正光(以下「中山」):事業の内容や状況、私たちが考えていることなどを、徹底的に理解しようとしてくださいましたよね。様々な情報をホワイトボード上で見事に整理される姿に、「ホワイトボードの魔術師だ」と思いました(笑)

── 5ヶ月にわたるメンタリング期間で、どのような課題に取り組んできましたか?

稲垣:今自分たちが取り組んでいることを一つの軸のもとで捉え直し、Must haveとNice to haveを切り分けていきました。「すべての人に医療の安全と質が保障された世界」を目指すには、まず今どの課題から手を付ければ良いのか。重松さんに交通整理をしてもらいながら、課題の明確化に取り組みました。

中山:医療環境や業界事情は国や地域によって大きく異なるため、収益へのつながり方も展開エリアごとに変わります。リソースが限られている中、どのように優先順位を付けるべきなのか、戦略を考え抜きました。

重松:たくさんある「やりたいこと」から、今やるべきことを抽出した5ヶ月間でしたね。まず何に集中するか、それをどういうステップで進めるか、どのようにアプローチしていくか、そしてどのように次につなげるか。そういったことをよく話しました。

稲垣:重松さんのおっしゃるとおり、私たちには「やりたいこと」が多すぎて、最初は自分たち自身が全体像を把握できておらず、重松さんへの説明も十分にできていない状況でした。その状況で重松さんが意見をくださり、それに答える形でディスカッションを続けていくと、自然と「これはやるべきか、やらないべきか」がクリアになっていきました。時間は有限で、全部はやれない。じゃあどこに集中するのか、と考えた結果、アジア地域、中でもカンボジアでの事業展開にいっそう注力していこうと決めました。

重松:稲垣さんが「やっぱりここで一つ、きちんと実績をつくりたい」と思うようになった瞬間が、このプログラムの中でのターニングポイントだったと思います。

── 事業全体の中で今優先して取り組む課題を、明確に設定できたわけですね。

重松:ただ、カンボジアでの展開は、決して簡単なことではありません。十分な情報が入ってきづらいためです。医療がどういう構造になっていて、現場がどんな悩みを抱えているかという、実態の把握が難しい。誰もやってないことだからこそ、情報を押さえに行くのが大変であり、なおかつとても重要です。

稲垣:重松さんとリサーチを重ねた結果、やはり海外での本格展開のためには、現地に行ってコネクションを作り、確実な情報を押さえに行くしかないとわかりました。結局、ファクトがあまり表に出てこないのが途上国の実態です。日本人経由で情報を集めようとしたこともありましたが、誰に聞いても同じ情報しか上がってこない。現地の人に直接聞くしか、ニーズを把握する方法はないんです。

中山:今後事業に関するディスカッションを進める上でも、現地で得た「ちょっとしたパーツ」が鍵になりそうだと感じました。また、現地で情熱を燃やしてくれる、強力なパートナーの開拓も必要ですね。

稲垣:取り組むべき課題は、自分たちが初めからやりたかったことに原点回帰しましたが、今回のメンタリングを通じてその精度や解像度が格段に上がったと感じています。自分の頭の中が整理され、要件がクリアに見えてきたのはありがたいことです。

事業を前進させるだけでなく、心の支えにもなるメンタリング

── メンタリングでは、どのようなアドバイスをもらいましたか?

稲垣:重松さんは「こうしたほうがいい」というよりは「こう考えたほうがいいんじゃない?」というふうに、新しい考え方やロジックを提案してくださいました。その延長線上で、「じゃあ、ここのファクトを集めにいこう」「この情報があればもっと精度が高まる」などと解決策が見えてくる。そんなメンタリングでした。

中山:気持ちの面でも、重松さんに助けられました。重松さんはいつも熱く、「応援してるよ」といつも口に出して励ましてくださいました。そのように応援の姿勢を常に示してくれる存在は今までなかったので、ありがたくて。本当に心の支えになりました。

重松:メンタリングは、アウトプットよりもプロセスにコミットするものだと思っています。起業家は答えのないことをやっているわけですから、メンターが答えを持っているわけじゃない。しかし、最適解を一緒に考えて、見つけに行くことはできます。またその道中、伴走しながらモチベーションを引き上げることもできるはずです。

── 重松さんは、何を心がけて稲垣さん・中山さんと接してきましたか?

重松:「相手をよく知ること」を何よりも大切にしてきました。単なるコメンテーターではなく、一緒に事業を成長・具体化させていく立場として、事業の中身や市場の動向だけでなく、お二人のこともきちんと理解したかったんです。メンターの意見が論理的に正しくても、相手に気付きをもたらせなければ意味がありません。お二人がどういう人なのかを汲み取り、それぞれの考え方に合わせたメンタリングを心がけました。

そのベースにあったのは、お二人へのリスペクトです。私はスタートアップで働いた経験や、自分主体で「0→1」を作り出した経験がありません。その代わりに、多くのスタートアップを見てきた経験から、客観的な意見を提供するよう努めました。メンターとスタートアップ、互いの立場が違うからこそ、リスペクトしあえる良い関係が築けたと思います。

対話の中で議論を深め、共に解決に向かう価値観を得た

── 稲垣さん・中山さんは、プログラム全体を通して成長できましたか?

稲垣:考え方が変わりました。このプログラムを通して、中山さんをはじめたくさんの方に関わっていただき、いろいろな議論がありましたが、事業自体のフェーズも進む中、うまく噛み合わない瞬間も出てきたんです。今までなかった葛藤、ひずみを経験しました。その困難をディスカッションで乗り越えたことで、「ほかの人と一緒に解決に向かっていくんだ」という価値観が得られました。

中山:少人数で難しい課題に挑もうとすると、互いにぶつかることもあります。そこで相手の意見をねじ伏せるのではなく、対話しながら相手の考えを引き出していくことの重要性を、重松さんから学びました。議論に乗った上で「こう考えたらどうだろう」と視野を広げ、議論を深めていく。そういった建設的なディスカッションの進め方を学び、人間的な成長があったと思います。

また、私はKOILを通じてこの事業に関わるきっかけをいただいたのですが、「どこまでやるのか」を自分で決めるしかない状況に置かれたことで、自分のキャパシティを知り、働き方を自分で定義できました。この意味でも、貴重な期間だったと思います。

重松:今回、稲垣さんと中山さんと接することで、私もメンターとしての役割を学ばせてもらいました。お二人は私の意見を良い意味で削ぎ落とし、100のうち20を吸収してくれました。これから事業が成長して会社も大きくなっていくと、多くのステークホルダーからの意見や要求が増えてきて、経営判断がより難しくなってくると思います。その意見を受け入れるか受け入れないかを、自分たちで判断できる芯を持ち合わせていることは非常に大事。なぜやりたいのか、何を実現したいのか、ブレない価値観だと思います。今後、困難な壁が現れたときにも、その力が大切な武器になるはずです。そういう意味で力のある、魅力的なお二人とプログラムに取り組むことができ、嬉しかったですね。

稲垣:重松さんがメンターで本当によかったです。これで終わるのは嫌だなあ。これからも、ぜひお話ししたいです。

重松:継続しましょう。お二人と話していると、議論というプロセスの楽しさを改めて感じられるんです。答えがないところに答えを見つけに行く議論、そんな議論ができる相手がいるのは大切なことです。私だけでなく、いろいろな価値観・キャリアを持つ人を巻き込んで、考え方を広げていくといいでしょう。お二人なら、できると思いますよ。

── 今回のプログラムは期待どおりでしたか? また、次回のプログラムに期待することはありますか?

稲垣:メンタリングは、本当に満足でした。ほかに、TEPとの連携もとてもよかったです。今後も大切にしたい、良いつながりが得られました。三井グループのネットワークを活かした人材紹介の機会があれば、より嬉しかったかもしれません。

中山:全体的には非常に満足していますが、強いてあげるとしたら、ディープなディスカッションの機会がもう少し多くても良いかもしれません。一日かけてグループワークをするなど、周りの参加者の議論の進め方や温度感を知れる機会があれば理想的ですね。どういう過程を経て報告に至ったのかを互いに把握できたら、より参考になりそうです。

重松:金銭的な支援もあると良いですね。お二人はカンボジアへの出張もありましたから。社会的意義のあることをやろうとしているので、資金面のバックアップでそういった取り組みをもっと広げられればと思います。

── 最後に、今後の事業の展望を教えてください。

稲垣:ここまでは目下の課題を語ってきましたが、Redgeとして最終的にフォーカスしたいのは医療現場の課題解決と、その先にある医療環境の改善です。そのために医療機器流通に参入し、昔ながらの流通のやりかたをアップデートしたい。経営面では、医療データビジネスを展開する企業として、ユニコーンを目指していきます。

重松:今回のプログラムを通してアプローチや優先順位が変わった側面もあるでしょうが、お二人のコアとなる「こういう世界を実現したい」という想いは変わらないと思います。その強い想いを持ち続けることは才能ですから、自信を持って信念を貫き通してほしい。そして、使えるものは全部使って、想いをカタチとして実現してほしいですね。

稲垣:今後事業拡大に伴い、共に事業を進めてくれる人を募集しています。私たちRedgeは、世界中の医療現場の課題を解決し、すべての人に安全で質の高い医療を提供したいと考えています。同じ想いを抱いている方、ぜひ一度ご連絡ください!


KOIL STARTUP PROGRAMについて

「KOIL STARTUP PROGRAM」は、柏の葉スマートシティにあるイノベーション拠点KOILにおいて、2022年より始動したスタートアップ支援プログラムです。 新産業創造を牽引するスタートアップの成長支援を目的に、KOILの無料利用、ビジネスプラン作成セミナーや個別メンタリングをパッケージ化したプログラムを用意しています。本プログラムを立ち上げることで、柏の葉スマートシティにおけるスタートアップの集積と事業成長、さらにはスタートアップ・コミュニティの醸成を促進し、柏の葉スマートシティにおける新産業創造をより一層加速していきます。


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