【スタートアップ&メンター対談】 2023.3.22

マーケットニーズを徹底議論。メンタリングを通じて、プロダクトも自分自身もアップデート

株式会社sci-bone 代表取締役 宮澤 留以 氏
TEPメンター 尾﨑 典明 氏

柏の葉の新産業創造を牽引するスタートアップ支援「KOIL STARTUP PROGRAM 2022」では、3社のスタートアップを迎え入れ、半年間にわたって各社の事業成長を後押ししてきました。

今回は、モーションデータの計測・解析・フィードバック技術を活用し、動作改善・習得に特化したウェアラブルデバイスの研究開発に取り組む「株式会社sci-bone」の宮澤氏に、TEPメンター尾﨑典明氏によるメンタリングの感想、全プログラムを終えて感じること、そして今後の展望を伺いました。

株式会社sci-bone  代表取締役 宮澤 留以 氏

信州大学大学院にて感性工学、生体計測を専攻。新卒で繊維メーカーに就職し、ウェアラブル事業に従事し、モーションデータ計測、解析アプリ開発を行う。2022年2月に株式会社sci-boneを設立し、国内研究機関で歩行動作に関する研究に携わりながら、事業を推進する。

尾﨑 典明 氏

2004年九州工業大学大学院・工学研究科物質工学専攻修了。コンサルティング会社にて企業の新事業・新商品開発支援に携わる。2009年S-factory創業、企業に加え、自治体、NPO、スタートアップに対し支援を行う傍ら、官公庁等のアドバイザー等歴任。
業種業態問わず、またその事業ステージによらず、それぞれの課題に応じた支援を実践。TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事、おもにディープテックスタートアップの支援を行う。NEDO 事業カタライザー、K-NIC スーパーバイザー、中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザーの他、筑波大学 客員教授を兼務。

ニーズの見極めとプロダクトの開発、2つの車輪を回した

── メンタリング開始時、お互いの第一印象はいかがでしたか?

株式会社sci-bone 代表取締役 宮澤 留以(以下「宮澤」): 尾﨑さんと最初にお会いしたのは、KOIL STARTUP PROGRAMの選考のときでした。質問が非常に的確で、本来受けられないような技術的な内容まで盛り込まれていたのが印象に残っています。もしプログラムに採択されたら、尾﨑さんから良いアドバイスが受けられそうだなと思っていました。見た目が怖そうだったので、ちょっと不安でしたが(笑)

TEPメンター 尾﨑典明(以下「尾﨑」): 初めて宮澤さんとじっくりお話ししたのは、プログラム最初の面談のときですね。ちょっと自信なさげな感じだったのは、私の見た目のせいだったのか(笑)冗談はさておき、宮澤さんの第一印象は「人の話をしっかり聞かれる方だな」というものでした。今もその印象は変わりません。ミーティングで話したすべての内容に、きちんと素早いリアクション、フィードバックが返ってくるんです。コーチャブルであることは、スタートアップにおいてとても大事。この点、宮澤さんはすばらしいですね。

── 今回、5ヶ月間のメンタリングを通して、どのような課題に取り組みましたか?

宮澤:sci-boneの事業の核であるハードウェア開発は、大規模な投資を要します。今後、さらに投資を増やして開発を前に進めるには、プロダクトへのニーズが存在するという確証を得る必要があります。この5ヶ月間は、尾﨑さんと共に仮説を立てながらマーケットの需要をつかみ、開発や事業そのものの方向性を定めていく期間でした。

尾﨑:「誰が本当にこれを欲して買ってくれるのか」を、メンタリング期間中、繰り返し議論してきましたね。そうやって人々のニーズを見極めつつ、プロダクト自体の制作も進めていく必要がありました。ハードウェアに付随するソフトウェアのパラメータ調整、アルゴリズムの設計にも並行して取り組みましたよね。モノが完成する手前の段階で、自らの仮説にもとづいて2つの車輪を回していく。とても難しい課題だったと思います。

── どのような手段で、その課題を解決してきたのでしょうか。

尾﨑:プロダクトの方向性は、マーケットイン的な要素とプロダクトアウト的な要素のバランスを取りながら決めていきましたね。宮澤さんが今取り組んでいる事業には、既存の市場といえるものがまだありません。まだ潜在的なニーズしかなく、それを汲み取るのは非常に難しい。こういった状況でのプロダクトアウトには、ホームランの可能性があるかわりに、三振の可能性もあります。しかし、だからといってマーケットニーズに振り回されて開発を進めてしまうと、ヒットは出てもホームランとはいかないことが多いんですよね。

いずれにせよ、これから市場を作っていく宮澤さんにとって大切なのは、人々が「こういうものがあったらいいな」と思い始めるタイミングを決して逃さないことでしょう。マーケットのうごきを読み、しかるべきタイミングを虎視眈々と狙いながら、地道にデータをとって、愚直に開発に取り組む。そんな日々でした。

宮澤:今回のプログラム期間中、2ヶ月ほどかけて、長野県でデータ収集に取り組みました。もともとは東京でデータを集めようとしていたのですが、行政との調整ハードルが高いなどの理由で、長野県での実施になったんです。大学生を始めとする被験者の方々に、歩いてもらったり走ってもらったりして、動きのデータが2000ほど集まりました。

また、より本格的な開発を目指して、開発メンバー集めにも取り組みました。これまではPCでの検証にとどまっていましたが、プログラムを通して多くの方々との関わりが生じ、「会社として動いていく、組織をつくっていく」というフェーズに進むことができました。

尾﨑:資金調達を視野に入れて、投資家がどういう部分を見ているか、といった内容も伝えました。「強み」の伝え方についても話しましたね。ベンチャーキャピタルの担当者と話すときや、イベントで広く事業を伝えようとするときには、ピンポイントで強みが刺さるよう、できるだけシンプルに事業内容を絞り込んでいこうと。

事業課題から生き方までカバーする「本当のメンタリング」

── 今回のメンタリングで、一番助けられたことは何でしたか?

宮澤:尾﨑さんと話しているうちに、自分の考えが整理されていくことですね。整理されるだけでなく、不安も解消されていくんです。「確実に課題を解決できる」という安心感がありました。「メンタリング」といいつつ実態はアドバイス、というケースも昨今多いですが、このプログラムでは本当のメンタリングを受けることができました。

尾﨑:宮澤さんは、プラクティカルな課題に関しては自分自身で状況を理解して、的確に相談してくれるので、ちょっと話せばすぐに解決できることも多かったです。それもあって、ミーティングではもっと抽象的なこと、起業家としての人生、生活の話にもなりましたね。例えば、会社として事業を進める中で必ず課題になる「資金繰り」は、起業家の生活にも直接関わるものです。十分に資金を調達できるまで生活はどうするのか、といった話題まで、聖域なく話し合いました。

宮澤:尾﨑さんのおかげで事業が前に進んだだけでなく、これからの生き方についても考えることができ、メンタルもうまく保てました。

尾﨑:対面でミーティングした日、帰りの電車でたまたま宮澤さんと一緒になったことがあって。今思えば、それをきっかけに深い話ができるようになりましたね。一見事業とは関係ない話を通じて、根本にある考え方をすり合わせることができた。自分自身も、より深い部分に目が向くようになりました。社会情勢もあってオンラインでのやりとりが増えましたが、リアルでのコミュニケーションもやはり大切ですね。そういえば今回のプログラムでは、それぞれのチームがお互いに相談しあうようなシーンもありました。人の話を聞き、自分と違う事例を知ると、とても学びになります。

── 尾﨑さんが今回のメンタリングで特に心がけたことは何でしたか?

尾﨑:メンターの役割は、メンティーが自分自身で考えて成長するために、ちょっとだけ手助けすることだと思っています。場合によってはガイドが必要な局面もあるでしょうが、宮澤さんはもともと自分で考えられる人なので、「こういう観点もあるよ」と視座を広げるような案内をすることで、その先に自分で獲得する何かが大きく変わりましたね。

また、今回はメンタリング期間が5ヶ月あったのもよかったです。宮澤さん自身がしっかり考えるだけの時間がありました。事業の面でも、プロダクトやサービスをじっくり設計していくのは大事なこと。時間をかけて、自分たちを高めていけたのではないかと思います。

新しい考え方をインストールし、視野を広げた半年間

── プログラム全体を通して、宮澤さんは成長できたと感じますか?

尾﨑:もともと宮澤さんは自分で考える能力を持っている分、視野が少し狭かった面もあるかもしれません。しかしこのプログラムを通して、より広い視野で物事を捉えられるようになったのではないでしょうか。

宮澤:この半年間で、尾﨑さんの心構えや考え方をインプットできたと思います。「リトル尾﨑」が自分にインストールされた感覚です。プログラムを通して「こういうふうに考えて、こうやって進めていこう」という指針のようなものが確立されました。

尾﨑:髪型もおそろいになったし(笑)

宮澤:はい、外見も影響を受けました。髪の毛がないことは、成功する起業家の十分条件だと思って……(笑)

── 今回のプログラムは、参加前の期待通りだったでしょうか。

宮澤:「プロダクトに対するニーズ予測に取り組みたい」という参加前からの目的を達成できて、満足しています。

尾﨑:ビジネスアイデアコンテスト「ハツメイノハ」に出られたのもよかったですね。宮澤さんの取り組みがこうして世の中に伝わるのは、素晴らしいことです。

宮澤:柏の葉エリアとは、今後も長く関わっていきたいです。全国的に見ても検証にぴったりの環境が整っていますし、研究機関も非常に多いので、共同研究にも取り組んでいけたらいいなと思います。

── 次回以降のプログラムに期待することはありますか?

宮澤:資金面でのサポートがあれば、より嬉しいですね。私は別の仕事をしながらsci-boneの事業に取り組んでいることもあって、プログラムにコミットしながら、別軸で検証のための資金を集めてくるのがなかなか大変でした。

尾﨑:資金面のバックアップがあれば、事業もより広がりそうですね。

── 最後に、今後の事業の展望を教えてください。

宮澤:今年の4月以降にプロトタイプを製作し、検証と精度の向上を進めた上で、来年の製品化を目指します。

尾﨑:ハードウェアは「一回作って終わり」ではなく、アップデートしていく必要があるので、大変な場面も出てくるかもしれません。しかしこのまま走っていれば、宮澤さんがこの分野の第一人者になれるはず。そうやって走っているうちに「こういうことやれない?」という提案を受けることもあるでしょう。そのとき、どう対応できるかが問われると思います。タイミングを逃さず、きちんとチャンスをつかめる準備をしておくこと。

宮澤:組織として対応できる状態をつくっていくことが大事ですね。技術シーズの確立と顧客ニーズの検証、そして資金調達。この3つ、どれもしっかり取り組んでいきます。

尾﨑:今後いろいろな場所で、相手と対等に話さなければいけない場面が増えると思います。宮澤さんは真摯で正直で謙虚な方ですが、これからは良い意味で風呂敷を広げられたらいいですね。そしてこの先事業が拡大するにつれて、一定の譲歩が必要な局面も出てくるでしょう。そのとき、譲れる部分・譲れない部分を見極めるためにも、「こんな社会をつくりたい」という想いを大切にし続けてほしいですね。それと同時に、宮澤さん自身の幸せも重要! この5ヶ月間、宮澤さんの想いを一番に尊重しながらサポートしてきましたが、今後も見守ろうと思います。

宮澤:尾﨑さん、これからもどうぞよろしくお願いします!


KOIL STARTUP PROGRAMについて

「KOIL STARTUP PROGRAM」は、柏の葉スマートシティにあるイノベーション拠点KOILにおいて、2022年より始動したスタートアップ支援プログラムです。 新産業創造を牽引するスタートアップの成長支援を目的に、KOILの無料利用、ビジネスプラン作成セミナーや個別メンタリングをパッケージ化したプログラムを用意しています。本プログラムを立ち上げることで、柏の葉スマートシティにおけるスタートアップの集積と事業成長、さらにはスタートアップ・コミュニティの醸成を促進し、柏の葉スマートシティにおける新産業創造をより一層加速していきます。


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